概要
アマビエは、江戸時代末期の肥後国(現在の熊本県)の海に出現したと伝えられる半人半魚の妖怪である。
外見は女性の顔を持ち、長い髪を肩まで垂らし、鳥のようなくちばしを備えている。胴体は魚の鱗に覆われ、足はなく、三本の尾を持つとされる。この特徴的な姿は当時の瓦版に描かれて広まったものである。
伝承と出現の記録
アマビエに関する最も有名な記録は1846年(弘化3年)4月中旬、肥後国の海面に光る存在が現れ、役人の呼びかけに応じて名を「アマビエ」と名乗ったというものである。
このアマビエは「この先6年間は豊作が続く。しかし同時に疫病も流行する。その際は私の姿を写して人々に見せよ」と予言したと伝えられている。この言葉を残すとアマビエは海中へと姿を消したという。
疫病除けの象徴としてのアマビエ
アマビエの伝承は、疫病流行時にその姿を描いた絵を掲げることで病を防ぐという民間信仰を生んだ。これは当時の日本における「予言獣」と呼ばれる存在の一種であり、似た役割を持つ「くだん」などと同じ系統に位置づけられる。
近年では、新型コロナウイルス感染症の流行時にはSNSやメディアでアマビエのイラストが急速に広まり、疫病退散の象徴として再び注目を集めた。
民俗学的意義
アマビエは単なる妖怪という枠に収まらず予言・豊穣・疫病除けという三要素を併せ持つ点で特異な存在である。
江戸期の瓦版における図像記録は、当時の人々が不安や危機に対して視覚的象徴を求めた証拠でもある。そのため、アマビエは日本の民俗文化において、災厄を退ける願いと情報の拡散手段の両方を象徴する妖怪として位置づけられている。